簡単にいうと…
文芸作品とは
美感的意義をもつ物事のうち、言語表現を行なう物事
という制作物です。
詳しくいうと…
言葉の美感
わたしたちがふだん用い、いまもこうして読んでいる言葉ですが、それは読む者に、特定のイメージを惹き起こす記号として機能します。
たとえば、2本の直線を縦に並行して書き、両者の間に垂直線を1本引いて出来あがる「H」という形象から、日本人であれば「えっち」という意味を察知します。そんな記号-意味や記号-イメージの結びつきの堆積は、文化とも呼ばれます。
文芸作品とは、これら意味の堆積の内部で、あるいはその外部で、記号を連ね、わたしたちにめくるめくイメージの連鎖を辿らせてくれる記号装置のことです。
たとえば、
「静かな夜だ。
静かな夜は、いつだって、誰かを泣かせている。」
―森博嗣『魔剣天翔』
という言葉には、「泣く人」という前景イメージと、「静かな夜」という背景イメージとが逆転し、併せて動(泣く)と静(夜)を鋭く対称させる機能があります。
あるいは、個々の言葉の洒脱を超えて、文芸作品の物語全体を通してある種の象徴や通過儀礼、未来の可能性や心的カタルシスなども表現されることがあります。
文芸の手法と種類
文芸には、主に以下の種類があります:
口承文芸
歌や物語、民謡や御伽噺などの種類があります。
詩
詩とは、レトリックや韻律などにもとづき、感情・叙情・ビジョンを表現する文芸作品のことです。
定型詩(和歌、俳句、ソネットなど)、自由詩、散文詩などの種類があります。
散文
小説、戯曲、エッセイ、日記などの種類があります。
以上のように文芸作品は、それが惹起するイメージの展開によって、今日もわたしたち読者の心に快の感情を生じさせてくれているのでした。
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20世紀文学の重鎮ボルヘスが、1967-68年にハーヴァード大学で行なった詩学講義です。その膨大な博識さに裏打ちされて、比喩や物語の方法論を独創的に教えてくれます。
詩というものについて、あらためて俯瞰し直してみるのにおススメの1冊です。目次はこちらのサイトをご覧ください。
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小説の主題は人情にあると説く、日本に近代小説観を導入した歴史的著作です。こうした、ある分野のマイルストーンをなす名著を読むのは、その分野への視野をさらに広げてくれるので、これを機会に読んでみるのはいかがでしょうか?
ちなみに内容は、こちらのサイトから原書が見れます(字体が難解ですが)。
つまり…
文芸作品とは
美感的意義をもつ物事のうち、言語表現を行なう物事
という制作物なわけです。
個人的には20世紀イギリスの作家ヴァージニア・ウルフの作品が好きじゃのぅ。文学は、その時代ごとのアイデンティティの在り方を再発見し、あるいは創造してきたぞぃ。これについて、「文学とは時代の病を発見する臨床の試みだ」と哲学者ジル・ドゥルーズは述べておるよ。
歴史のツボっぽくいうと…
- 紀元前30世紀頃文字化された最古の詩メソポタミアのシュメール文明において、『ギルガメシュ叙事詩』が粘土板に書かれる
- 紀元前8世紀頃叙事詩の精華古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスが、口承の叙事詩『イーリアス』『オディッセイア』を創作。その後、紀元前6世紀頃に文字化される
- 紀元前330年前頃詩学の誕生古代ギリシャの哲学者アリストテレスが、その著作『詩学』において叙事詩・抒情詩・劇詩について記し、現代にいたるまでの詩論に根底的な影響を与える
- 712年日本の歴史日本の奈良時代に、日本神話史を記した『古事記』が、稗田阿礼の暗誦によって書き留められ、元明天皇へ献上される
- 12~14世紀頃琵琶法師の吟唱日本の鎌倉時代に『平家物語』が成立、以降、文字化された読み本と並行して、琵琶法師が日本各地で口承した語り本を通じ、後世へ伝承される
- 1605~1615年近代小説の勃興スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスが、近代小説の先駆けといわれる小説『ドン・キホーテ』を出版する
- 1808~1833年戯曲の精華ドイツの作家ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテが、戯曲『ファウスト』を出版する
- 1913~1927年無意志的記憶の物語フランスの作家マルセル・プルーストが、小説『失われた時を求めて』を出版する
<参考文献>(2020/05/04 visited)
森博嗣『魔剣天翔』講談社文庫、2003年。