口承文芸

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簡単にいうと…

口承文芸とは

 口頭で伝えられてきた文芸作品

という制作物です。

20世紀初頭にフランスの民族学者 ポール・セビヨが用いたla littérature oraleを、1947年に日本の民族学者 柳田国男が邦訳した言葉です。意外と最近ですよね。

詳しくいうと…

口承文学とは?

琵琶法師の『平家物語』や、ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』などがとりわけ有名ですが、口伝えによる文芸作品は世界各地に数多く存在します。

文字化されなかった理由としては、単純に文字のない社会だったため、文字はあっても文芸目的では用いられなかったため、あるいは文字使用が貴族階級・知識階級に限られていたため、などさまざまです。

口承文芸の種類としては、たとえば神話、伝説、昔話、歌謡、叙事、はては落語や諺なども含まれます。

口承文学の特徴

文字伝えによる文芸作品とくらべると、口承文学は、その内容が変化しやすい、という特徴が挙げられます。

たとえば室町時代~江戸時代に成立したとされる『桃太郎』ですが、話によっては、十団子(串団子)だったり黍団子だったり、おじいさんが草刈りに行ったり柴刈りに行ったり、詳細がさまざまに異なります。

ちなみに桃太郎が、戦装束を纏い、犬・猿・鳥を「家来」にするver.は、明治時代になってから、当時の大日本帝国の象徴として脚色され国語の教科書で普及したという経緯があります。

どんな無害そうな物語でも、その背後にひそむ意図には気を付けましょう。

 

他方、今日伝えられている口承文学がそうであるように、ある時点で文字化されることで評価があらためられる、ということも数多くあります。

たとえば平安時代の『古今和歌集』に収められた和歌のうち、およそ4割ほどが「詠み人知らず」ですが、そのなかには民衆のあいだで語り継がれた歌も少なからずありました。以降、『古今和歌集』は和歌のお手本として今日まで伝わっています。

また、奈良時代に成立した『日本書紀』は、もともと口承伝えだった日本の神話を、当時の天武天皇が「偽りを削り実を定めて、後葉に流(つた)へむと欲(おも)」ったことをきっかけに、すぐれた記憶力の持ち主である稗田阿礼の暗誦によって書き留めたものでした。以降、『古事記』と並んで、日本国の正統性の根拠資料のひとつとなっているのはご存知の通りです。

 

 

以上のように、口承文芸は、その口伝えによって数多くのひとびとを介して、今日わたしたちが読むことのできる昔話のうち多くを占めるにいたった、そんなお話なのでした。

ちなみに、昔話の研究といえば、旧ソ連の民族学者ウラジーミル・プロップの名を出さずにはいられません。
1928年に彼の出版した『昔話の形態学』は、口承文芸含めた当時の昔話の構造分析をしており、その意義は今日高く評価されています。

プロップの提示した昔話の構成要素について、以下にwikipediaの引用を掲げておきますね。読めば意外と興味深いですよ。

昔話の構造31の機能分類

0.導入(α)
1.家族の一人が家を留守にする(不在、β)
2.主人公にあることを禁じる(禁止、γ)
3.禁が破られる(侵犯、δ)
4.敵が探りをいれる(探りだし、ε)
5.敵が犠牲者について知る(漏洩、ζ)
6.敵は犠牲者またはその持ち物を入手するために、相手をだまそうとする(謀略計、η)
7.犠牲者はだまされて、相手に力を貸してしまう(幇助、θ)
8.敵が家族のひとりに、害や損失をもたらす(加害、A)、家族の成員の一人に何かが欠けている。そのものが何かを手に入れたいと思う。(欠如、a)
9.不幸または不足が知られ、主人公は頼まれるか、命じられて、派遣される(仲介・連結の契機、B)
10.探索者が反作用に合意もしくはこれに踏み切る(対抗開始・反作用、C)
11.主人公は家を後にする(出発、↑)
12.主人公は試練をうけ、魔法の手段または助手を授けられる(寄与者の第一の機能、D)
13.主人公は将来の寄与者の行為に反応(主人公の反応、E)
14.魔法の手段を主人公は手に入れる(呪具の贈与達獲得、F)
15.主人公が探しているもののある場所に、運ばれ、つれて行かれる。(二つの国の間の空間移動、G)
16.主人公とその敵が直接に戦いに入る(闘いH)
17.主人公に標がつけられる、傷を負う。(標づけ、J)
18.敵対者が敗北する(勝利、I)
19.初めの不幸または欠落がとりのぞかれる(不幸または欠落の解消、K)
20.主人公は帰還する(帰還、↓)
21.主人公は迫害や追跡をうける(迫害、追跡、Pr)
22.主人公は追跡者から救われる(救助、Rs)
23.主人公は、気付かれずに家または他国に到着する(気付かれない到着、O)
24.偽の主人公が、不当な要求をする。(不当な要求、L)
25.主人公に難題を課す(難題、M)
26.難題が解かれる(解決、N)
27.主人公が気付かれる(発見・認知、Q)
28.偽の主人公や敵、加害者が暴露される(正体露見、Ex)
29.主人公に新たな姿が与えられる(変身、T)
30.敵が罰される(処罰、U)
31.主人公は結婚し、即位する(結婚、W)

七つの行動領域

1.敵対者(加害者)
2.贈与者(提供者)
3.助力者
4.王女(探求される者)とその父親
5.派遣者(送り出す者)
6.主人公(探求者もしくは犠牲者)
7.偽主人公

(引用元)

 

・口承文芸とは、口頭で伝えられてきた文芸作品だよ
・神話、伝説、昔話、歌謡、叙事詩、あるいは落語や諺などの種類があるよ
 

さらに知りたいなら…

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『花咲爺』や『かちかち山』など、日本に古くから伝わる口承文学の物語と背景を、柳田国男が丁寧に描く1冊です。

内容はこちらのサイトから原著を読むことができます。

 

つまり…

口承文芸とは

 口頭で伝えられてきた文芸作品

という制作物なわけです。

 

現代じゃと、文字化どころかデータ化されとるから、口承というのはいまいちピンとこんかもしれんのぅ。けれど昔は、親や近所のひとびとが、口頭で御伽噺や伝説を語り聞かせてくれるのが当たり前じゃったんじゃろうな。隔世の感があるわい。

歴史のツボっぽくいうと…

  • 紀元前8世紀頃
    ホメロスの叙事詩
    古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスが、口承の叙事詩『イーリアス』『オディッセイア』を創作。その後、紀元前6世紀頃に文字化される

  • 712年
    日本の歴史
    日本の奈良時代に、日本神話史を記した『古事記』が、稗田阿礼の暗誦によって書き留められ、元明天皇へ献上される

  • 12~14世紀頃
    琵琶法師の吟唱
    日本の鎌倉時代に『平家物語』が成立、以降、文字化された読み本と並行して、琵琶法師が日本各地で口承した語り本を通じ、後世へ伝承される

 

 

<参考文献>(2020/05/11 visited)

口承文学 - Wikipedia
Paul Sébillot - Wikipedia
桃太郎 - Wikipedia
古事記 - Wikipedia
古今和歌集 - Wikipedia
よみ人しらず - Wikipedia
ウラジーミル・プロップ - Wikipedia

 

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