レシプロ型蒸気エンジン

技術要素
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この用語のポイント

・蒸気の温度・圧力・体積の変化を利用して、ピストンを往復運動させるよ

簡単にいうと…

レシプロ型蒸気エンジンとは

 外燃機関の一種で、蒸気の熱によってシリンダー内の温度・圧力・体積を変化させることで、ピストンやフライホイールに運動を与える

技術個体です。19世紀後半以降、廃れました(高効率な内燃機関の台頭による)。

なお「レシプロ」とはreciprocating(ピストンの往復運動)の略です。

 

ここではワットの蒸気エンジンをモデルに説明してゆきます。

詳しくいうと…

開発の経緯

蒸気エンジンの開発された17世紀~18世紀当時、イギリスでは製鉄業が盛んになりつつありました。

金属を溶かすには高温の火が必要になり、高温の火を付けつづけるには大量の石炭が必要でした。

そして、石炭を得るには鉱山を掘る必要があるのですが、ここで問題が。

鉱山には地下水が流れており、坑道がしばしば水浸しになって作業にならなくなったのです。排水しなくてはなりません。

そこで、揚水ポンプの出番なのですが、地下水から漏れ出た大量の水溜まりを、地上へ排水するには、ポンプへ運動エネルギーを供給するための大きな動力装置が必要です。

こうした経緯で、レシプロ型蒸気エンジンは開発されました。

レシプロ型蒸気エンジンの見た目はこんな感じです。

部品がたくさんありますね。一つひとつみてゆきましょう。

 

 

 

 

構造

レシプロ型蒸気エンジンは、以下の主要部品で構成されています。

ボイラー

  …湯を沸かします。

復水器

  …シリンダーで使われた蒸気を再利用します。

復動シリンダー/ピストン

  …上下に動きます。

 

調速機 …フライホイールの回転が高速になると、蒸気量を減らして適正回転量へ戻します。

ビーム(梁) …ピストンの上下運動をフライホイールへ伝えます。

フライホイール(弾み車) …ピストン-ビームの上下運動を回転運動へ変えます。

 

主な仕組みをひとことで言うと、次のエネルギーの流れとしてまとめられます:

 ボイラー(蒸気の力) → ピストン(上下運動)

  → ビーム(上下運動) → フライホイール(回転運動)

レシプロ型蒸気エンジンのこうした動きを追ってゆきましょう。

 

行程①:高圧/低圧蒸気によるピストン下降

まず、ボイラーからシリンダーへ、熱々の蒸気が供給されます(図中左端の赤線)。

高温になった蒸気は、みずからの体積を膨張させる(外へ圧す)傾向を持ちます。

この圧力によって、シリンダー内でピストンが下降します。

なお、以前の稼働時にシリンダー内下部に残っていた蒸気は、このとき上からピストンに押しつぶされて、復水器のほうへ逃げてゆきます。

気体の温度が上昇すると、その圧力や体積も上昇するという関係については、下記用語も参照ください:
ボイル=シャルルの法則
ボイル=シャルルの法則とは、理想気体の圧力・体積・温度の関係を表す自然法則だよ

さて、あとの仕組みは簡単です。下降したピストンに引っ張られて、ビームの左側が下降し、右側が上昇します。このビームの右腕の上昇に引っ張られる形で、フライホイールが半回転します。

でも、このまま終わっては半回転だけでおしまいです。続きがあります。

 

行程②:低圧/高圧蒸気によるピストン上昇

つぎに、さきほど復水器へ逃げた蒸気が水となってボイラーの中に戻り、再加熱されます。

このボイラーからの蒸気が、今度はシリンダーの下部のほうへと供給されます(図中左端の赤線)。

弁の工夫により、タイミングよくボイラーから上部へ続く弁が閉じ、下部へ続く弁がこのとき開くためです。

またこのとき、シリンダー上部の排気弁も開くため、先ほど吸気された蒸気はこの排気弁を通って復水器へと逃げてゆき、またボイラーで再利用されることになります。

ピストンが、今度は上昇するため、ビーム左腕も上昇し、逆に右腕は下降して、フライホイールはさらにもう半回転進みます。これでさきほどの行程とあわせて、一回転することができました。

 

運動エネルギーの行方

 こうした行程を、高速で矢継ぎ早に繰り返すことで、フライホイールは5秒間に1回転ほどの速さで回りつづけます。

このフライホイールの回転運動は、シャフト(軸)を通じて、運動させたい器械へと伝えられ、駆動されます。19世紀当時、揚水ポンプをはじめ、自動車機関車の車輪、蒸気船のスクリューなどがこうして回されました。

 

調速機による蒸気量のフィードバック制御

以上のメインとなる仕組み(復動シリンダー/ピストン、独立復水器)に加え、ワットの蒸気エンジンにはもうひとつ、調速機(ガバナー)というアイデアが盛り込まれています。

これは、フライホイールの回転速度が速くなってしまったとき、ボイラーからの供給蒸気量を減少させることで回転速度を平常時へ戻す仕組みです。どういうことでしょうか?

 

右図は、フライホイールが通常速度で回転している様子です。

フライホイールから、ベルトや回転子などを通じて、変な形の振り子がぐるぐる水平回転しています(図中真ん中の紫色物体)。

この変な振り子が調速機です。

 

次の図は、フライホイールが勢いあまって高速回転してしまったときの様子です。

このとき、フライホイールの高速回転に連動して、調速機も高速回転し、振り子がその末端に付いた重りをぶんぶん振り回します。

この重りの高速回転時、遠心力によって、調速機の上端部分を下降させる力が働きます。

この下降により、メインとは別のちいさなビームの右腕が下降し、左腕が上昇します。

さてビームのこの左腕、ボイラーとシリンダーを結ぶパイプ内の弁につながっていました。

ビーム左腕が上昇すると、この弁が引っ張られて、パイプをやや閉じる格好になります。

このパイプが閉じかかることにより、ボイラーからシリンダーへ流れる蒸気の量が減少します。つまり、その動作源の減少したピストンの上下運動が遅くなり、ひいてはフライホイールの回転運動も遅くなって平常時の速度に戻るのです。

ピストンやフライホイールが過度に高速運動すると、それら部品の破損原因などになるため、それを抑制する必要性から生じた仕組みがこの調速機です。よくできた工夫ですね。

この類いの調速機は、18世紀当時すでに、石臼を用いる製粉機で利用されていたそうです。ワットがこの調速機をはじめて蒸気エンジンへ搭載しました。

ちなみに、ワットのこの調速機付き蒸気エンジンは、フィードバック制御機構(出力の結果に応じて入力を自動修正する仕組み)の先駆けと言われています。

 

・レシプロ型蒸気エンジンは、蒸気の圧力によってピストンやフライホイールを運動させる外燃機関だよ
・ピストンを動かすのに使われた蒸気は、復水器を経由してボイラーで再加熱(再利用)されるよ
・調速機(ガバナー)のフィードバック制御によって、フライホイールが回転しすぎないよう調整されるよ
 

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蒸気の基本的な物性・工学的応用を説明する本です。
蒸気機関とその付帯設備(タービン、復水器、ポンプなど)についても触れられています。

本の目次はこちらのサイトをご覧ください。

 

つまり…

レシプロ型蒸気エンジンとは

 蒸気の熱によってシリンダー内の温度・圧力・体積を変化させることで、ピストンやフライホイールに運動を与える。しかも蒸気は復水器で再利用され、調速機能も付いた

技術個体というわけです。

 

より高効率に運動エネルギーを得られる内燃機関に取って代わられたとはいえ、レシプロ型蒸気エンジンのそのメカニカルな工夫の集積には、頭が下がる思いじゃのぅ。

歴史のツボっぽくいうと…

紀元1世紀頃 アレクサンドリアの工学者・数学者ヘロンが

       蒸気の噴射を利用して回転する球について記述を残す。

1690年 フランスの物理学者ドニ・パパンが

     蒸気の凝縮現象に伴う減圧を利用して大気圧によりピストンを上下動させる

     機関を考案する。

1698年 イギリスの軍人・発明家トマス・セイヴァリが

     蒸気の凝縮現象を利用した揚水ポンプを開発する。

     なおこの際、セイヴァリが「火力によって揚水する装置」という広い特許を

     取得したため、その後直近の発明家たちはこの特許のもとで開発を行なった。

1712年 イギリスの発明家トマス・ニューコメンが

     鉱山の排水用として実用的な蒸気エンジンを製作する。

1769年 イギリスの技術者ジェームズ・ワットが

     ニューコメンの蒸気エンジンの改良型を製作する。

1849年 アメリカのジョージ・コーリスが

     ワットの蒸気エンジンの改良型で特許を取得する。

 

 

<参考文献>(2018/09/16 visited)

蒸気機関 - Wikipedia
1509201.jpg: : 機械39
徳島大学工学部機械工学科昭和39年卒同窓会ブログ
調速機 - Wikipedia
蒸気エンジンの歴史 (History of the steam engine)

・チャールズ・シンガー他編(田辺振太郎訳)『技術の歴史7』1954-1959,1978年(1979年)

・Adam Hart-Davis and others(eds.), (2009,2011)Science, DK Publishing,. 

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