簡単にいうと…
工芸品とは
特有の形態によってエネルギー上の機能をもち、手作りされることの多い物
という制作物です。
一般には「芸術的意匠の施された実用品」と定義されますが、ここでは芸術品ではなく実用品としての、つまり道具としての工芸品について説明します。
詳しくいうと…
工芸品の歴史
木に果実がなっているけれど、手が届かないので、木の棒を作ります。
あるいは、寒い時期に備えて、厚手の布を縫います。
あらゆる物には、こうした工夫(芸)が介在しています。大量生産されているどんな物だって、その歴史の黎明期では手作りだったのです。
また、人類史において長く手作りされてきたこれらの物は道具とも呼ばれています。その過程ではしばしば、職人の癖や思想が反映されやすく、このため工芸の芸は、工夫というより観賞される芸術と解釈されることも多いです。
道具という意味での工芸品は、200万年前にホモ・ハビリスが石で道具を作り始めた時点をその起源とすることができます。
工芸品の特徴
道具としての工芸品の特徴は、生物の身体運動と密接に連関しながら、あるエネルギー布置上である機能を果たす、という点に求められます。
たとえばコップには、人間の手と連接しやすいように取っ手があり、その器の形状は内部に注がれた液体の重力エネルギーを受け留めてくれます。
あるいは衣服は、人間の身体形状に沿って縫合されており、身体の発する熱エネルギーの放散を防ぐ働きがあります。
他方、これら工芸品は、機械とは異なり、みずからの始動や移動のための主要な運動エネルギーを、すべて人間から供給されています。たとえば鍬(くわ)は、人間がその身体動作でもって動かさなくては畑に畝(うね)を作れません。スイッチひとつで働いてくれる耕運機とは対照的ですよね。
工芸品の種類
道具としての工芸品には、主に以下の種類があります:
織物
織物は、糸を縦横に紡ぎ合わせて作られる布地、という工芸品です。
熱エネルギーや光エネルギーの蔽いとして、あるいは引っ張り圧力に抵抗する構造体として機能し、衣服やカーテン、布団などとして用いられます。
衣服
衣服は、体表面に付着させる物、という工芸品です。
多くは織物が素材として用いられますが、その多様性は世界の各地域と同じだけ幅広いです。
木工品
木工品は、有用な形となるよう加工された木材、という工芸品です。
その形態のヴァリエーションは数限りないですが、多くは棒状・板状となり、他の道具の構造部材として利用されます。
金属器
金属器は、有用な形となるよう加工された金属、という工芸品です。
その頑丈さと、溶融時の成形しやすさにより、ほぼすべての機械の部品として用いられます。
陶磁器
陶磁器は、粘土を焼き固めて、主に器状に成形される工芸品です。
粘土内のケイ酸が、アルミニウムやカルシウムと化合することでガラス化し、固まります。
ちなみに陶器と磁器は、このガラス化される成分と量により区分されます。
皮革製品
皮革製品は、動物の皮革や、合成皮革を継ぎはぎして作られる工芸品です。
主に靴、鞄、財布などに用いられます。
紙製品
紙製品は、繊維状の薄い膜を乾燥させた物(紙)を素材に作られる工芸品です。
本やクッキングシート、感熱紙やあぶらとり紙など、たくさんの種類があります。
宝飾品
宝飾品は、貴金属や海産物(貝・サンゴなど)を研磨・彫塑することで作られる工芸品です。
人間はキラキラ光る物に価値を認める傾向があるため、これら宝飾品は高値で取引されます。金・銀・プラチナなども多用されます。
ガラス工芸品
ガラス工芸品は、ガラスを素材として作られる工芸品です。
多くは窓ガラスとして用いられますが、ステンドグラスやカットグラス(切子)など、観賞用途でも制作されます。
楽器
楽器は、木材や金属、繊維などを素材として、一定の音エネルギーを発するように作られる工芸品です。
弦楽器、木管楽器、金管楽器などの種類があります。
3Dクラフト
3Dクラフトは、数値制御の加工機械(3Dプリンター)によって、合成樹脂やゴムなどを素材として切削・彫塑される工芸品です。
3Dデータを設計図として、加工機械に入力してあげると、機械内の工具が自動で切削・彫塑してくれます。デジタル時代を代表する工芸品ですね。
以上のように工芸品は、元々は人類史において手作業で作られ、私たちの身体を拡張したり保護したりして、日常生活を私たちの身体と共に構成してくれているのでした。
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つまり…
工芸品とは
特有の形態によってエネルギー上の機能をもち、手作りされることの多い物
という制作物なわけです。
工芸品ってあれじゃろ、伝統産業のことじゃろ? それを道具一般と同列に扱われると、なんだか不思議な気分じゃわぃ。たしかに「道具」は抽象概念じゃから、より具体的な言葉を探そうとすると「工芸品」になるのかもしれんが……。
歴史のツボっぽくいうと…
- 30万~3万年前木材の利用ネアンデルタール人たちが石器を用いて木から槍や舟などを作り出す
- 紀元前8700年前頃金属の利用メソポタミア地方で、紀元前8700年前頃の純銅製ペンダントが出土される
- 8000年前~6500年前頃織物の発明西南アジアやエジプトで、麻や綿などの植物繊維を用いた織物が発明される
- 紀元前5500年前頃精錬の開始ペルシャで、銅鉱石を加熱して銅元素を抽出する精錬が行なわれる
- 5000年前頃毛織物の発明メソポタミア地方で、羊毛を用いた毛織物が発明される
- 5000年前木造の建築日本の集落で木を骨組みにした建物が建てられる
- 4000年前頃絹織物の発明中国で、蚕の分泌物である絹を用いた絹織物が発明される
- 紀元前3600年前頃銅合金の発明メソポタミア地方で、銅-錫合金(青銅)が発明される
- 3000~2000年前頃木工技術の発展古代エジプトで木工技術が発展し、斧、釿、鑿、鋸、弓錐などの木工道具が利用される
- 2600年前頃漢服の登場黄帝の時代以降、漢民族の礼服として漢服が定着、以降17世紀の明王朝の衰退まで着用されつづける
- 紀元前2500年前頃製鉄の普及アナトリア半島(現在のトルコ周辺地域)で製鉄技術が普及する
- 紀元前1400年前頃鉄合金の発明ヒッタイト帝国(現在のトルコ周辺地域)で、鉄に炭を添加した鉄合金(鋼)が発明される
- 1000~300年前頃日本への金属器輸入日本の弥生時代に、青銅器と鉄器の技術が大陸から伝わる
- 3~7世紀頃和服の黎明期日本の古墳時代に、豪族たちが袴や喪(ロングスカート)を身に着ける。
- 1733年前織物の生産性向上イギリスの発明家ジョン・ケイが、経糸の間に緯糸を通す際、それまでの指とは異なり飛び杼(ひ)を用いることで、織物の生産性を大幅に向上させる
- 1785年前織物生産の機械化イギリスの発明家エドモンド・カートライトが、織機の機械化に取り組み、以降多くの特許を取得する
- 18世紀現代洋服の登場フランス革命時、革命の推進力となった社会階層が、貴族たちの半ズボン&膝丈コート(キュロット)ではなく長ズボン&腰丈ジャケット(サン・キュロット)を着用する
- 19世紀前半自動織機の普及イギリスやアメリカを中心に、自動式織機の機械が普及する
- 1935年化学繊維の発明アメリカの化学者ウォーレス・カロザースが、世界初の合成繊維であるナイロンを発明する
<参考文献>(2020/05/02 visited)