この用語のポイント
簡単にいうと…
運動器とは
力学的エネルギーを行使する個々の道具・器械・パーツ
という技術要素・個体の総称です。
詳しくいうと…
運動に満ちた風景
いま、あなたが自分の周囲を眺めてみるなら、目にする風景の細部ひとつひとつに動きが満ちているでしょう。
たとえ室内にいても、すでに重力の作用があらゆる物体に働いており、支えを失えばすぐに落下運動します。そうでなくとも、換気扇のファンが回り、ベッドのスプリングが軋み、時計の針がカチカチ動きます。
外では、いまもどこかで車のタイヤが回転し、飛行機の翼が機体を上昇させ、船のスクリュープロペラが船体を前進させています。
生物と同様に、技術物は、その形状や仕組みがどうであれ、様々な物質から構成されて存在している以上、こうした運動の世界に必然的に身を寄せています。
あなたがWebブラウザでネットサーフィンを静かに楽しんでいるときでさえ、そのWebサイトの基盤である遠いどこかのサーバー筐体内では、排熱ファンが回り、スイッチが切り替わり、ハードディスクの針が忙しく動き回っているほどです。
これら動きにかかわる道具や器械やパーツ類は、運動器という言葉で総称できます。
下図はこの運動器を、主にその力学的エネルギー(運動E&位置E)の方向や種類に応じて分類したものです。
運動器の種類
線型運動器
線型運動器は、そのエネルギーの向きが総じて直線状に表されるタイプの器械です。
重力、摩擦力、張力、弾力などの力学的エネルギーを利用する器械がこれに該当します。
放物運動器
放物運動器は、弓や石、弾丸などの投擲物を放り投げるタイプの器械です。
その投げ方は、水平方向へ投擲する水平投射と、斜め上へ投擲する斜方投射の2つに分類できます。
回転運動器
回転運動器は、そのエネルギーの向きが総じて回転弧状ないし回転弧に対して表されるタイプの器械です。
慣性モーメントや遠心力などにまつわる力学的エネルギーを利用する器械がこれに該当します。
周期運動器
周期運動器は、その運動エネルギーの発生・向きが一定タイミングで反復されるタイプの器械です。
反復の発生には、位置エネルギーや、圧電体に供給される電気エネルギーなどが利用されます。
流体運動器
流体運動器は、その働きが液体・気体において働くタイプの器械です。
液体・気体に対して運動エネルギーを直接伝えるもののほか、比重差や圧力差を利用するものも多いです。
以上のように運動器は、重力・摩擦力・張力・弾力、水平投射・斜方投射、慣性モーメント・遠心力、振動、浮力・圧力・揚力など、さまざまな力学的エネルギーのヴァリエーションを変奏しながら、今日もわたしたちの生きる仕方を支えているのでした。
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つまり…
運動器とは
力学的エネルギーを行使する個々の道具・器械・パーツ
という技術要素・個体の総称です。
歴史のツボっぽくいうと…
前期旧石器時代(約330万年前) 石器が使用される。
旧石器時代中期~後期(数十万年~数万年前) 世界各地で弓矢が用いられはじめる。
旧石器時代中期(10~5万年前頃) 木の枝をしならせた罠が利用される。
旧石器時代後期(5~1万年前頃) 弦の張りを用いた弓矢が利用される。
旧石器時代後期(5万年~1万年前)
紀元前5~4世紀 古代中国やヨーロッパで投石機が使用されはじめる。
紀元前5000年頃 古代メソポタミアで車輪が用いられたとされる。
紀元前2500年頃 古代メソポタミアで、ロバに牽かせた車輪付き戦車が用いられる。
紀元前2000年頃 中央アジア地方で、スポーク付き車輪が用いられる。
紀元前4世紀 古代ギリシャの哲学者アリストテレスが振り子について記述する。
紀元前4世紀頃 古代ギリシャの工学者ヘロンが、
弦をねじることで復元力を発揮する機械弓について記述する。
紀元前3世紀頃 古代ギリシャの発明家クテシビオスが、
青銅製の板バネを利用するカタパルトを発明する。
紀元前3世紀頃 古代ギリシャの工学者ビサンチウムのフィロンが、
弾性を備えた部品としての「バネ」の概念について初めて記述する。
紀元前3世紀 古代ギリシャの数学者・工学者アルキメデスが
船舶用のスクリューを発明したとされる。
紀元前3世紀 古代ギリシャの数学者・工学者アルキメデスが
液体中の浮力について説明する。
79年頃 イタリアのポンペイで鉄製の釘抜きハンマーが使用される。
14世紀頃 ぜんまいを利用した機械式時計が発明される。
16世紀 イタリアの物理学者ガリレオ・ガリレイが振り子の等時性を発見、
晩年には振り子時計を設計する。
1556年 ドイツのゲオルク・アグリコラが
著書『デ・レ・メタリカ』で、鉱山換気用のファンについて記述する。
16~17世紀頃 ヨーロッパで馬車の懸架装置に衝撃吸収用の鋼製バネが搭載される。
1657年頃 オランダの物理学者ホイヘンスが振り子時計を発明する。
1678年 イギリスの自然哲学者ロバート・フックが
バネの物理法則(フックの法則)を発表する。
18世紀頃 さまざまなピッチでのコイルバネ製造機(コイリングマシン)が作製される。
1790年 スペイン帝国(現メキシコ)の神父アントニオ・アルサテ・イ・ラミレスが
ボールタップ式フロートスイッチを発明する。
1797年 イギリスの実業家エドモンド・カートライトが
蒸気機関用ボールタップ式フロートスイッチの特許を取得する。
1834年 ドイツの鉱山技師が、鉄線を撚り合わせてワイヤロープを開発、
鉱山の立坑作業用に用いられる。
1845年 イギリスの発明家ロバート・ウィリアム・トムソンが
空気入りゴムタイヤの特許を取得する。
1851年 フランスの物理学者レオン・フーコーが
フーコーの振り子を用いて地球の自転運動を証明する。
1854年 イギリスの技師ジョン・ラムズボトムが
このパッキング技術により、内燃機関が可能になる。
1865年 イギリスの物理学者ウィリアム・ランキンが
水を加速させる円盤としてプロペラを見なす運動量理論を提起する。
1867年 車輪の外周(トレッド)がゴムで覆われ始める。
1888年 イングランドの獣医師ジョン・ボイド・ダンロップが
自転車用の空気入りゴムタイヤを発明する。
1894年 スウェーデンの発明家グスタフ・ド・ラバルがミルクセパレータを開発する。
1895年 フランスのミシュラン兄弟が
自動車用の空気入りゴムタイヤを発明し、競技レースに出場する。
1908年 ドイツの技術者プロスパー・ロランジュが、Deutz社とともに
ディーゼルエンジン向けの精密な噴射ノズル/ポンプを開発。
1920~1930年代 スウェーデンの化学者テオドール・スヴェドベリが
現代的な遠心分離機を開発する。
1939年 ドイツのハインケル社が、世界初のターボジェットエンジン搭載の
航空機He178を初飛行させる。
1967年 ドイツのボッシュ社が開発した電子制御式噴射装置を
搭載した乗用車が販売される。
1969年 アメリカのトーリン社が、数値制御(NC)式のバネ製造機を開発する。
<参考文献>